スイスの研究機関が毎年発表する世界六〇数カ国の国力の評価で、一九九〇年代前半の日本は世界一位と評価され、実際に自動車生産でアメリカを上回り、半導体生産で世界の半分以上を占有する大国でした。しかし以後、日本の地位は急速に低下しはじめ、現在では三〇位前後を低迷しています。
その背景に存在するのは世界全体が情報社会に移行しはじめた巨大な転換への対応に出遅れたことです。それを端的に証明する数値は世界の上場企業の株式時価総額の順位です。一九八九年には上位二〇社に一四社の日本の企業が登場していましたが、現在では上位五〇社に一社が登場するだけです。
この低迷の状況から脱却するためには二種の条件が必要です。第一は社会の構造が工業社会から情報社会への転換という数百年間に一回という巨大な変化が発生したことを認識すること、第二は時代の転換を直感して未来を目指して現状を突破する人材の登場が必要ということです。
今回、紹介した二三名の人々は時代も一二世紀から現代まで、出身でも日本だけではなく世界の様々な地域と広範ですが、共通するのは自身が登場した時代背景や社会条件に拘束されることなく、長期の視点で社会を見通し、目指す目標を実現してきた人々ということです。
このような視点から活動しようとする人々の参考になればと、『モルゲン』のウェブサイトと季刊雑誌『パーセー』に紹介してきた人物紹介を一冊に集約したのが本書で、これまで遊行社から発刊していただいた『清々しき人々』(二〇一八)、『凛々たる人生』(二〇二一)、『爽快なる人生』(二〇二三)の続刊になります。
これらに掲載した古今東西の人物は九五名になり、それぞれの偉人については多数の詳細な伝記が存在しますが、簡略に偉業を理解するために役立てば光栄です。今回で『モルゲン』での連載を終了しますが、九年もの長期の期間、執筆の機会をいただいた遊行社の本間千枝子編集長以下の皆様に感謝します。
令和六年初夏
月尾嘉男
(まえがきより)