『野鳥と私たちの暮らし』著者メッセージ

 私が野鳥に興味を持ち、鳥の研究を始めたのは、信州大学教育学部に入学した時からでした。それ以来、同大学を退職した後の現在まで60年近くにわたり、主に長野県を舞台に様々な鳥の生態について研究してきました。この間に私自身が研究した鳥に加え、大学で学生さんの卒論研究を指導し、一緒に研究した鳥も加えると、100種類ほどになります。

 私が株式会社「遊行社」 出版部 モルゲン編集部の本間千枝子さんから鳥のエッセイの執筆依頼を受けたのは、2017年の年末でした。全国の中学校・高校の生徒さんと先生方を対象にした月刊新聞モルゲンを毎月発行しているので、そこに執筆して欲しいとのことでした。それ以来、2018年4月から今年の2024年3月まで、6年間にわたり連載を続けてきました。

 最初の3年間のエッセイのタイトルは「森に棲む鳥」で、毎月1種類の鳥について、特徴や分布、生息環境、一般的な生態に加え、私たちの研究から明らかになったことを中心にまとめてきました。その3年間で取り上げた31種類の鳥のエッセイは、「野鳥の生活 森に棲む鳥」として2021年10月に「遊行社」から出版されました。

 その後も連載は続き、「野鳥と私たちの暮らし」とタイトルを変えて、2024年3月まで続けてきました。本書は、前回の一冊目に続いて「野鳥と私たちの暮らし」という新たなタイトルで、前著では取り上げなかった種類の鳥についてまとめた33回のエッセイを、同じ「遊行社」から出版したものです。

前著で取り上げた鳥は、森に棲む鳥や森と深い関わりを持って生活する鳥でしたが、今回は開けた環境に棲む鳥について取り上げました。縄文時代以前の日本は、広く森で覆われ、開けた環境はわずかしか存在しませんでした。その後大陸からの稲作文化の普及により、現在のような開けた環境が平地に創り出されました。その開けた環境に移り棲んだのが、今回のシリーズで取り上げた私たちの周りに棲む身近な鳥たちです。

 これらの鳥は、いずれも私たち日本人と関わりを持ち、日本の文化と深い関わりを持ってきた鳥です。野鳥と人との関わりの歴史にも目を向けて鳥を見るのも一つの視点と言えます。本書を手にした読者の皆さんが、野鳥を知り、少しでも心豊かな気持ちになって頂けましたら幸いです。

                          中村 浩志

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