2020年1月から我が国でも急速に感染拡大し、そして漸く2023年5月に5類感染症(季節性インフルエンザや麻疹、風疹、感染性胃腸炎、RSウイルス感染症などの一般的な感染症)に移行するまでのコロナ禍は、私たちの平素の暮らしの中で確固たる信念を持って対峙し続けてきた既成の価値を悉く根底から覆しました。必要な身の回り品や食材の調達に始まり、教育や学びスタイルのシフト、そして日々の経済生活を支える職務の遂行に至るまで、幅広く「オンラインに依存する生活」が強いられるようになったのです。これまで常に、「対面対話」を是として対峙してきたあらゆる人間生活場面が大きく揺さぶられ、新たな社会体系の中で実に多様な葛藤に直面することとなり、物質的にも精神的にも人々は大いに疲弊しきったものです。
しかし、同時にまたコロナ禍にありながらも人々は皆、忍耐に忍耐を重ね、そして試行錯誤を繰り返しながら様々な問題に対処してきたのも事実です。家庭内で引き起こった親子関係・夫婦関係をめぐって、教育・学習の場で問われたオンライン教育の在り方をめぐって、そしてまた職場で推奨されたテレワークの余波をめぐってなど、実に予測もしなかったような価値転換を強いられたにもかかわらず、経験知(暗黙知)を蓄積しながら難局を打開してきたのです。
そして、非常時からほぼ平時に戻った今、時の移ろいとともに、あの苦しかった日々が何となく忘却の彼方へと追いやられようとしている社会的風潮を案じ、そのような経験知を整理して、理論知を付与しながら現代に叡智の痕跡を残しておきたいと考えたのが本書執筆の動機でした。本学会(異文化間情報連携学会)の会員が直接・間接に入手した様々な問いの中からコントロバ―シャルなイシューが含まれているものを精選し、アカデミックな切り口とプラクティカルな切り口による「レシピ」を作成した次第です。少しでも、読者の皆様のお役に立つことができれば幸いです。
2024年12月吉日
異文化間情報連携学会会長 淺間正通